僕と彼女と上野
東京は上野、そこは僕と彼女は初めてデートした場所です。
大学3年の秋、僕と彼女は出会いました。その日のうちに好きなの映画の話で盛り上がり、物足りない僕は彼女にどこか行こうか誘ったのです。
せっかくならと、僕も彼女も帰路が重なる上野へと向かい、お茶をしました。
そこは公園内にあるスターバックス。
平日なのにお店はとても混雑していましたが、僕には、彼女の発する言葉しか聞こえていませんでした。
彼女が好きな映画について話をする様子は、とても幸せそうで、僕まで笑顔になってきます。「そろそろ帰ろうか」の言葉が出ないように祈って、僕は話が尽きないように少し努力しました。
気がついたら閉店時間になっていて、その日は流石にもう帰ろうかという雰囲気になってしまいました。
帰りの電車の中で僕は決意を固めて、家に帰ると早速彼女に電話して告白をすることに。
なんと彼女からOKが。
そんな彼女とは、もうすぐ3年になります。
第二の故郷
付き合ううちに、僕たちは大学を卒業して就職しました。会える頻度が減って寂しく思いましたが、よりいっそう上野には通うことに。カフェも動物園も池も噴水も美術館も博物館も、学生の頃に通いつめていた当時のまま変わりません。
ここには変わらない安心感があります。彼女への思いも、ここに少し置いておこうと考えた僕には、上野という街が、僕らの愛を育てる手助けをしていたようにも思えたのです。
噴水の近くで食べたお弁当、カフェで飲んだ珈琲が心に染み渡っていくのを感じるのでした。
不穏な影と、光
付き合って3年を過ぎようとしていたある日、些細なことで喧嘩になり、僕たちは破局の危機を迎えることに。
きっかけは些細でも、積もり積もった不満の投げ合いになると醜い感情が姿を表すことも。
こんなことで仲違いしてはお互いにとってメリットにならないと僕の直感は告げていました。
会って話し合うことを相手に申し入れた僕は、場所を上野に指定しました。思い出の地を散策するうちに、気持ちが落ち着きてくるのを感じ、言葉の応酬ではなく、相手を受け入れることに心の余裕が生まれました。
かつての思い出の地で笑顔だった彼女を思い出すと、心が冷静になると同時に、当時の暖かい記憶が蘇ってきます。隣の彼女を見ると、悲しそうに笑っていました。
「ここには、いろんな思い出が詰まっているね。ごめんね、些細なことでムキになって」
彼女が悪いのではないのです。僕らに足りなかったのは、相手を思いやる余裕のある心なのです。それは思い出の場所に置いてきた心の一部から拾い上げることができるものでした。過去を振り返ることで、前に進んでいけます。
大切な人との思い出には必ず、それに付随する土地、味、匂い、あらゆる感覚があると思うのです。どうかそれを見逃さずに、丁寧に思い返してみる。
それが、自分と相手を一歩成長させるきっかけになることを、思い出のデートスポットが教えてくれました。