私にとって”恋愛漫画”というジャンルでまっさきに浮かぶ作品は、一条ゆかり先生の『砂の城』です。
この作品は恋愛以外にもいろいろな要素がつまっているので、恋愛漫画はちょっと苦手かもという人でも読めると思います。
若い人にとっては絵柄が少し古いかもしれませんが、背景の美しさもチェックしてほしいです。
ヨーロッパのセレブの華やかさが好きだという人にもおすすめです。
洋画になってもおかしくない、豪華でスケールが大きい作品です。
以下、ネタバレありです。
ストーリーを簡単に説明しますと、主人公はフランスのお金持ちの娘で、その家の前に捨てられていた男の子と恋に落ちます。しかしこのような身分が違いすぎる2人がすんなり認められるわけがなく、そのために悲劇が・・、というある意味”お約束”的な展開です。
しかしこの作品のすごいところは、ここまでがほんの序盤であるということです。
その後の展開の激しさ、主人公たち以外の恋愛(わき役がしっかり描かれているというのも大きな魅力)、恋愛以外の人生の転換などいろいろ濃すぎて、長いストーリーですがアッという間に読んでしまいます。
主人公が子供のころから愛していた男の子とは、悲劇的な別れをすることになるのですが、その男の子の子供(男子)をひきとり育てることを決意します。髪の毛の色以外は愛した人にそっくりなその子供が大きく成長するにつれて、ますます愛した人に似てくるのです。
育てられている子のほうは、主人公のことを養母というより女性として見ているのですが、もちろん最初はそんな気持ちは受け入れません。
育った家から離れた寮学校に入ったその子は、学校の仲間(こちらも濃い人生を送っている子が何人も)と触れ合って生活して成長していきます。そして自身の出生についても知ることになります。実は貴族だったのです。つまりその子のお父さんと主人公は、身分の違いで悩む必要は本当はなかったということになるのです。ということは・・と、このあたりのことも考えだしたら止まらなくなります。
この作品の主人公は、かなりの優柔不断で読んでいてイライラします。
この人がもっとしっかりしていたらあの悲劇も起きなかったかもしれませんし、もし登場人物の人気投票をおこなったら、主人公はたぶん1位にはならないでしょう。それでもストーリーの展開の魅力、他のわき役たちの魅力で読ませてくれます。
ラストは賛否両論かもしれません。
私はちょっとずるいと思いましたが、美しく終わらせるにはこれしかないのかもと思いました。